FIカブ50のノーマルシリンダーとカブ90互換クランク+スペーサの珍構成エンジンです。今回はスペーサ厚15mmから13mmに変更することで馬力アップを図りたいと思います。
スペーサ厚を15mmから13mmへ変更
概要
前回、FIカブ50 + カブ90互換クランク + 15mmスペーサの組み合わせでテスト走行に成功しました。ただ、走ってはくれたものの以下のような問題がありました。
- シリンダー圧縮が50ccの既定値よりさらに低くトルクが無い
- エンジン始動からしばらくの間ピストンが首振りしていると思しき音が聞こえる(温まると聞こえなくなったor小さくなった)
そこで今回はスペーサ厚みを13mmとすることで問題の改善をはかろうと思います。計算上では圧縮比は次のようになります。FIカブ50が圧縮比10:1なのでそれより高圧縮なエンジンになります。
- FIカブ50(JBH-AA01)燃焼室容積:約5.5[cc](スペック値から逆算したので間違っている可能性があります)
- 排気量:シリンダ直径39[mm] x ストローク49.5[mm] = 約59.1[cc]
- 圧縮比 = 11.7:1
また、スペーサが2mm薄くなることでピストンがシリンダーからみ出す量が少しマシになるはずで、首振りも多少は改善出来るのではと期待しています。
厚さ3mmのスペーサを作る
すでに厚さ5mmのスペーサが3枚あるので、それと新しく3mmのものを作って組み合わせれば13mmになります。うまい具合にヤフオクで3mm厚のアルミ板を落札出来ましたので、それから切り出すことにしました。
エンジンの腰上を分解する
つい先日に組み上げたばかりですが、エンジンの腰上を分解します。降ろすのが手間なので、今回は車体に載せたまま作業することにしました。
ヘッドを外してみたところ、走行距離が100kmちょいにも関わらず真っ黒です。オイル上がり/下がりを疑いましたが、オイルが漏れているにしてはピストン表面が乾いているように思えます。憶測ですが、シリンダー圧縮が低いので燃焼温度が低くなり燃えカスが出た(カーボンが燃えなかった)のではないでしょうか。
シリンダーを抜いてみると、予想通りスリーブに首振りの痕跡があります。ピストンも側面に傷がついていました。このピストンにはオイル保持のため溝があるのですが、それがシリンダーの縁に引っ掛かって削れています。このまま走り続けるとあっという間にシリンダーとピストンが駄目になってしまいそうです。
今回のようにピストンスカートがスリーブからはみ出る場合、キャブ仕様カブのように溝がないタイプのピストンを使ったほうが良いかもしれません。
スペーサを13mmにする
次にスペーサを挿入してシリンダーを13mm嵩上げします。このエンジンは前回に15mmのスペーサを取り付けてあるので一旦剥がして組み直します。
組み付けてあるスペーサは液体ガスケットで貼り付いています。なかなか外れないので、私の場合はスクレーパーを部品の隙間にあててゴムハンマーで繰り返し軽く叩くようにしました。強く叩くとスペーサに傷がついたり歪むので注意します(実は、太めのマイナスドライバーを使ってバラそうとしてスペーサの一部を歪めてしまいました。後述しますが今回の失敗原因だと推測しています)。
スペーサ表面を綺麗に脱脂してから液体ガスケットを塗布して取り付け、シリンダーとヘッドを元通り組み付けます。ノックピンは少し頭が出た状態です。無いよりマシだと思いますが、組み付けたときに若干のガタがあります。同じ長さのノックピンでテーパーが無いかあと5mm長い製品があれば良いのですが、残念ながら見つけられませんでした(もしかするとロールピンを加工すればいける?)。
エンジンの試運転
シリンダ圧縮の確認
液体ガスケットが乾くのを待ってからコンプレッションゲージを使ってシリンダ圧縮を確認しました。
圧縮が上がっているのは確認出来たのですが、どうもキックするとエンジンから何かが当たったような金属音がします。念のためクランクを手でゆっくりと回してみると問題なくスムーズに回転します。組み付け忘れたような部品は無いはずです。この段階では首振りかカムチェーンが暴れているのか、はたまた他の何かなのか判断出来ませんでした。何回キックしても音は変わらないので、駄目元でエンジンを始動してみることにしました。カムチェーンであれば暫くアイドリングさせておけば音が鳴らなくなるかもしれません。
エンジン始動するも異音あり
いつも組み上げた直後のエンジン始動はどきどきします。特に今回は変な音がしているので不安も増します。いざ、キーを捻ってキック、するとエンジンが始動してくれました。が、やはり何かが当たっているような金属音がします。これは圧縮比が上がってパワーアップしたような音ではありません。すぐにエンジンを切りました。
エンジンを見渡して変なところが無いか確認し、作業手順を思い返しますが原因が思いつきません。もう一度エンジン始動してしばらく様子を見てみましたが、時間の経過とともに改善する気配はありません。恐々とスロットルを少し開けてみるとエンジン本来の音は大きくなりますが打音はあまり変わりありませんでした。音の周期からいってピストンの往復に関係する何かなのは分かりますがお手上げでした。
その時のエンジン音を録音したものをあげておきます。
1.ノックセンサーで録音したエンジン音(音にびびってすぐ停止したので短いです。こちらでは問題の音は聞こえない?)
2.ボイスレコーダのマイクで録音したエンジン音
異音の原因を調べる
当初はエンジンが始動したらしばらく町内を走っていつものテストコースと考えていましたが、コレでは走り出すわけにはいきません。折角組み上げたエンジンですが、また腰上を分解して原因を調査することにしました。
ヘッドを外して燃焼室とシリンダーを見ると特に問題は見つかりません。バルブヒットしたような痕跡は皆無です。ただ、もしかするとヘッドガスケットからオイルが漏れているかもしれません。
唸りながらシリンダーを見ていると違和感があります。よく見ると何故かシリンダとスペーサの間に隙間があるのに気づきました。シリンダーとクランクケースはまだ分離していないのでこの段階で隙間があるのは妙です。よく見てみるとボルトでしまっている側は隙間が無いですが、その反対側には隙間があります。どうもシリンダーが微妙に傾いて取り付けられていた疑いが出てきました。
傾きの原因がスペーサにあるのは間違いないので全て取り外して確認することにしました。スペーサのガスケットを拭って3枚まとめた状態で厚みを測ってみると、なんと部位によってコンマ数ミリで厚みが違います。結局スペーサをバラバラにして1枚づつ見ていくと原因が判明しました。先日15mm->13mmにする時に取り外した際にスペーサの端を歪めてしまっていました。
ピストンはクランク小端部とピストンピンで繋がっていて、指で触っても縦方向にガタはありませんが横方向(ピストンピンと平行軸)には若干の遊びがあるので動きます。シリンダーが斜めに取り付けられたためにピストンが上下する毎に横方向に動いたピストンがシリンダーに当たって音がしていたと考えると納得がいきます。これが異音の原因である可能性は高いでしょう。
スペーサ修理と組み立て
問題の歪んでいる箇所はくっついているスペーサ同士を剥がすのにマイナスドライバーでこじった箇所でした。他にも加工時のバリが残っている箇所が数箇所あり、その部分では組み合わせた時に0.05mmほど厚みに差異が生じていました。恥ずかしながら、今回は根本的には私の確認不足が原因で生じた問題です。
歪んでいた箇所とバリをヤスリで削ったあと、もう一度スペーサを組み付けました。前回はスペーサ部分にだけ液体ガスケットを塗布しましたが、今回はシリンダヘッドガスケットにもオイル漏れの可能性があったので塗布して組み立てました。後は液体ガスケットが乾くのを待って試運転に再挑戦です。
今回の教訓は、急いては事を仕損じる、急がば回れ、ですね。とほほ。。。